版画小説『老人と海』の船出

Posted 2022-03-20

文字も挿絵もすべて版画で作る本を企画しました。企画のきっかけは、昨年お弁当の包み紙の文字を版画で作り、これが好評を得て、そう云えば僕が作る版画文字は面白いと云われていたことを思い出しました。そこでこの機会に集中して版画文字を作ってみようと思い、版画文字のテキスト探しが始まりました。

版画文字にして面白いテキストではなく、僕が長年読み返し続けている本が、僕に意義がある版画文字制作に思えました。この本にヘミングウェイが1952年に発表した『老人と海』を選びました。ぼくの手元にあるのは新潮文庫で、福田恆存が1953年の初訳から二度目に改訳した版です。この本は僕が長年読み返し続けている本で、僕にとってはバイブル的な存在です。急病で搬送される時も、この本だけを持って行きます。この本の全文を写経のように書き写す版画を制作するのではなく、特に感銘を受けた小説の部分を僕が独断で抜粋して、ここだけは僕の版画文字で伝えたい西藤博之版の『老人と海』の制作を企画しました。こうして文字に挿絵が加わる版画の『老人と海』の制作が始まりました。

小説の文字を版画で作り始めて気がついたのは、とても時間のかかる制作になることです。作り始めて半年以上経ち、慣れてきましたが、5文字を彫るのに約1時間かかります。小説の部分抜粋になる版画の全ページの文字数をまだ数えていませんが、この企画が途方もない制作時間を要することはわかりました。

今回の展示は、完成した冒頭のページをPart.1として展示し、次回をPart.2として、数回に分けた展覧会で完成したページを順次発表する予定です。数年後には、文字も挿絵もすべて版画の『老人と海』を、部数を限定して印刷製本する計画です。