隠れん坊の精神史

Posted 2013-02-16

個展の基本思想を表明します。

隠れん坊の精神史隠れん坊の鬼が当たって、何十か数える間の眼かくしを終えた後、さて仲間どもを探そうと瞼をあけて振り返った時、僅か数十秒前とは打って変って目の前に突然開けている漠たる空白の経験を恐らく誰もが忘れてはいまい。隠れん坊の主題は何であるのか。端的に言うならば、この遊戯的経験の芯に写っているものは 「迷い子の経験」なのである。自分独りだけが隔離された孤独の経験なのであり、社会から追放された流刑の経験なのであり、たった一人でさまよわねばならな い彷徨の経験なのであり、人の住む社会の境を越えた所に拡がっている荒涼たる森や海を目当ても方角も分らぬままに行かねばならぬ旅の経験なのである。かく て隠れん坊とは、こうした一連の深刻な経験を抽象画のように単純化し、細部のごたごたした諸事情や諸感情を切り落として、原始的な模型玩具の形まで集約し て、その中に埋め込んでいる遊戯なのである。 (藤田省三著作集より)