さざなみ軍記

Posted 2011-02-05

井伏鱒二。寿永二年七月、平家一門は六波羅に火をかけて都落ちした。そのとき、平家某の一人の少年が書き残した陣中日記。これは架空の物語。著者が平家落人の古記録を掘り起こして、行間に実感のある描写を充填した小説版「平家物語」。古典の再発見、再解釈というは易し、わたしは今回再読して、著者の認識の深さにうなだれた。一ノ谷合戦後、生き延びた少年は益々武者振り、明日の戦を想い夜眠る。歴史は絶望を語るが小説は肉声を伝える。小説は達観しない。諸行無常の響きは壇ノ浦まで届きません。