【國ノ泉】について
Posted 2016-05-15私の版画が日本酒のラベルに採用された『國ノ泉』という言葉について、考えたこと、思ったことを書きます。
そもそも私にとって『國ノ泉』という言葉は、コクスイコーポレーションと福鶴酒造から、この言葉で版画の制作依頼を受けた、与えられた言葉です。さて、『國ノ泉』という言葉で版画を作ろうとして思い浮かんだのは、スタインベックの短編小説です。旅に出て、くたびれ果てて国に帰ってきた若者が、老人が庭に撒いている水を飲ませてもらう。すると老人が「何といっても国の水が一番だ」、と言う。そんな小説です。この小説の言う「国の水」が、清酒【國ノ泉】になることを願って、私は日本酒ラベルのための版画を作りました。
考えてみると、日本酒もワインもスコッチもウォッカもバーボンもその他の酒も、その国の水で造られています。水だけではなく、その土地の気候と穀物と細菌と人の手間のおかげで、その土地固有の酒が出来上がります。その土地の水、その気候と穀物と細菌と人の手間、云わば土地の精髄を結集して出来た酒、そのラベルに私の版画が採用されたことを、私はとても誇りに思います。
また考えてみると、音楽も絵画も文学も、文化と云われるものは酒を囲んだ場で生まれたのではないでしょうか。古代、人類が未文明だった頃、酒を囲む集まりの中で「誰か、唄でも歌わんか?」「この洞窟、殺風景だから、おれ絵描きます。」「この前、面白いことがありました。今からお話しします。」が、文化の発生地点ではないでしょうか。
私は思いました。音楽よ、美術よ、文学よ、文化の精髄たる酒の前に平伏せよ、と。
一輪の花を挿した酒の空きビンの立姿が、背後に並ぶ版木共の女王に思えます。
Thanks Mom.