画廊随想 by 阿部 悟

Posted 2017-05-30

一年振りに再会した友人の阿部悟氏より、今回の個展へ寄稿文をいただきました。以下に転載します。——————————————————————————————————————–
版画家彫刻家の西藤博之氏の個展『Todo o Nada』が、千日前のギャラリーAmi-Kanokoで開かれています。土曜日は昨年に引き続き、同じ富山の福鶴酒造さんにもお越しいただいて、オール富山の食とお酒をいただく日本酒の会が開かれました。会場は西藤さんの展示のある二階和室。日本酒の会の始まる前には、西藤さんの版画がジャケットになったアルバムを発表されたばかりの泉尚也さんによる『音の国の鬼』組曲の全曲演奏がありました。ベースのみで構成され、ループマシンていうんですか、音を重ねていったり、また消したり、とてもドラマチックで悲しい演奏がありました。ジャケットの黒い丸がベースの重い音のようで、というのが印象的でした。さて、一年ぶりにお会いした西藤さんは鋭さをフランクさで昆布締めにしたような、軽やかさと重厚さが鉄板からいい匂いが立ち昇るような、相も変わらずの佇まい。お話させていただくだけで、ニューヨークとスペインと富山と千日前に行ってきたような感じの方です。Tシャツも和装も似合うってそういうことです。作品は文字通り刻み込まれた無数の線に圧倒、いや違うな、通り越して一定の距離が、ぱんっと生まれるような感じです。いい意味で言っています。それは怖さのことなのだと思います。瞬時に作品と自分の空間になる。それを迫るものがある。易々と近付いたり触ったりできない本能的な距離感。しかし、でもなぜか西藤さんの作品はその「恐怖みたいなもの」さえ放棄させるように見るものを誘うような気がして、それを通り過ぎたニュートラルな、まるで雑談でもしているような時間や距離、でも心のどこかでは明らかに何かが引っかかって気になっている、このニュートラルな明るさ、ニュートラルな静けさ、それは一枚めくれば鬼が、という感じの。。。ごめんなさい。。。旗、格好良かったです。で、西藤さんと並べば実にしっくりとくるもう1人の鬼が、富山の小さな酒蔵、福鶴酒造の山本さんです。営業なので、と本人は笑って仰いますが、そういう括りの方では無いでしょう。同時に御自身が仰るように、全部やってる、というそのオーラが出ている。今日も蔵の6種類のお酒を持ってきていただきました。嘘みたいな話で、書いてて力の無さが情けないですが、全部本当に美味いんです。北陸から上信越へと旅して、どこへ行っても海の黒さと夕暮れの深い感じ、日本酒の何段も違う感じ、つくづくです。西藤さんラベルの限定60本の一升瓶、非売品。かっちょよかったなー、欲しかったなー。個人的にはそれもですが、わざと磨いてないと言われてたやつも好きです。四つのお店の鱒寿司でどれが一番だったかはわかりません笑。富山、ごちそうさまでした。/阿部 悟